みしえるまりザき!

アメリカで開花中、「元」日本人スタンダップコメディアンの日記

葛藤の夜

子供の時から作家になりたかったのに、いつの間にか53歳になってしまった。

真面目に小説を書く練習をしていれば、この歳までには何冊も書けていただろうに!

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昨夜はロサンゼルスのチョイ北西のバレーと呼ばれる地域にあるボーリング場のバーのオープンマイクに行ってきた。7時半から名前をノートに書き込めて、その順番に8分のパフォーマンスが出来る。うちから車で35分くらいかかるので、そのオープンマイクに行きそうなメンツに連絡を取って、私より先に着いていたらリストに名前を書いておく様に頼む。前回7時32分に着いたら、何と14番目でステージに立てたのは11時半だったから、必死だ。2時間以上もの女性卑下ネタを一人8分ずつ聞くのはとても辛い。早くやって早く帰りたい。

7時22分についたら、知り合いが既に私の名前を書いてくれていた。3番目。その後、続々と知っている顔が登場する。コロナ前はハグだったけど、今はグータッチ。みんな、ほぼ下ネタ系。良かった、3番目で。9時には帰ろう。

8時過ぎからオープンマイクが始まる。ライトが明るいボーリングレーンがある場所から、暗く、ステージだけが照らされたバーに入り、前の方の席に座る。ステージにはマイクスタンドと小さなテーブル。テーブルの上には「ケツの穴舐め」と書かれたピッチャーが置いてある。ケツの穴舐めジョークを言ったコメディアンはそこにお金を入れなくてはいけないルールになっている。私は53歳にもなって、なんでここでこんな事をしているんだろう、と思う。ここにいる他の奴らは大体彼女もいない独身の30代の男で、他に行くところがないからここに来て、お互いの傷を舐め合っている感じだ。私にはちゃんと家族がいて、暖かい家もある筈なのに。

私の名前をリストに書いてくれた知り合いは2番目のはずだったのに、司会の知り合いが2番目に割り込んでる。まだ夜は浅いのに既にかなりディープな下ネタだ。それに全く面白くない。数分後、すっかり白けた空間で知り合いが呼ばれてステージに立った。

彼はサテライトラジオやケーブルテレビのコメディーショーにもたくさん出ているらしい。「俺はここいらで一番面白いやつだぜ!」と息巻いている。オープンマイクが始まって25分、やっと笑いが聴こえる様になった。見廻すと、席は全部駆け出しや売れていないコメディアンで埋まっている。安いビールを片手に立って見学いている者もいる。

ジョーの8分が終わって私の番になった。ネタはまず鉄板イントロネタで、それから今練習中のネタ2つ。笑いは取れているが、バーの外から人が何人か入ってきて中断されて、流れが止まった。あと1分の合図のライトが当てられる。そこまでウケていないが、うまく切り上げて退場しなくてはいけない。最近、よく使っている締めくくりネタを言って、マイクをスタンドに戻し、半分以上義理の拍手の中、席に戻る。

出来が良くなかった。知り合いを目で探すがバーにはいない。外に行ったのか?一緒の席に座っている脚本家のコメディアンが5番目後に割り込むらしいから、見てってくれと言うので待つ。もう一度見回すが、知り合いはいなかった。テキストするが返事はない。

脚本家は私より歳が上のオバサンなのだが、いつも際どいネタばかりだ。今日は新しいネタだと言うし、来週はレストランでのコメディーショーに出るから、てっきり綺麗なネタかと思ったら、いつも以上の下ネタだった。でも、ウケている。ここにいる奴らは根っからの下ネタ好きなのだ。だから自分たちも下ネタばかり。

あー。私は何やっているんだろう。こんな場末のバーで。木曜日の夜。最近はガソリンも高いのに、夕飯を子供に作ってからすぐ、家から35分も車を飛ばして来て。ネタはそこまでウケなくて。自己嫌悪に陥る。これを平気で繰り返せる様になったら、一人前のコメディアンになれるのだろうか。

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ラフなネタ帳にこれを使っています。良い紙だとサラサラ良いネタが書けそう!!